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東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)208号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。

引用例の記載内容、本願発明と引用例記載の考案との一致点及び相違点が審決摘示のとおりであることは当事者間に争いがないところ、原告は右相違点に対する判断を争うので、以下に検討する。

二 取消事由(1)について

主板の下側に、その主板の上面に開口しかつ有底の小ポツトをその内面空間を底壁に向い先細状にして多数突設してなる育苗ポツトが本願出願前周知であることは当事者間に争いがない。

1 成立に争いのない甲第二号証(本願明細書)によれば、本願発明は人手により無造作に投げてばら播きするか或は機械的に条播きする土付水稲苗の育苗ポツトに関するものであることが認められるから、後者の方法が田植機によるものを指すか否かの点は措くとして、審決が前者の方法を採り上げて本願発明と引用例記載の考案を対比したことに誤りはない。そして、前掲甲第二号証によれば、前者の移植方法は小ポツトの開口した上面から成育した水稲苗を引抜くことによつて行われるものと認められ、かかる移植作業及びその前段階である育苗作業は、審決が指摘するように、小ポツトと底板を別体とする構成を採ることなく、小ポツトを有底の一体構成とすることによつて可能であることは当業者にとつて自明なことということができる。もつとも、小ポツトと底板を別体構成としても右の移植、育苗作業は可能であるが、これによる効果が格別にすぐれていることを認めるに足りる証拠はない。

2 ポツト苗のような土付苗においては床土中で根絡みを生じ、かつそれによつて土を塊状に保有するものであることが周知であることは当事者間に争いがなく、この事実によれば、小ポツトに植えた苗が根絡みを生じ小ポツトの内面と同じ形状の土塊を形成することもまた周知であるということができるから、原告主張の(イ)の効果、即ち右土塊を形崩れさせずに上面から苗取りすることは、小ポツトの内面空間を先細状としたことにより生ずる当然の効果として、当業者の容易に知り得るところというべきである(なお、上面から苗を引抜く関係上ポツトの内面空間を底壁に向い先細状とするのが望ましいことが容易にわかることについては、原告も明らかに争わないところである。)。

他方、前記周知の先細状育苗ポツトが記載されているとして審決が引用した成立に争いのない甲第四ないし第六号証の各実用新案公報と前掲甲第二号証によるも本願発明の育苗ポツトが周知の先細状育苗ポツトに比し突き刺さり及び活着の効果においてどの程度差異があるのか明らかでない。

3 したがつて、本願発明が播き水稲苗の育苗ポツトにつき前記相違点<1>及び<3>に関し、前記周知の育苗ポツトの構成を採択することは当業者が必要に応じて容易になし得る設計変更であるとした審決の判断に誤りはなく、取消事由(1)は理由がない。

三 取消事由(2)について

本願発明の特許請求の範囲には「いわゆる根絡み根鉢現象を起生させることができる」小ポツトの大きさについて具体的に数値をもつて限定した記載はなく、前掲甲第二号証によれば、本願明細書の発明の詳細な説明の項にその大きさの例示として、深さほぼ三〇ミリメートル、開口面積ほぼ二二五平方ミリメートル、小孔の直径ほぼ二五ミリメートルのものが記載されていることが認められるにすぎない(第五欄五行ないし七行)。

しかして、成立に争いのない甲第三号証(引用例)によれば、引用例において格子状苗箱を形成する各苗室で育成された苗は引抜かれたうえ、田植機に掛けられるものであることが認められるところ、前記のように、ポツト苗のような土付苗においては床土中で根絡みを生じ、かつそれによつて土を塊状に保有するものであることが周知であること及び前掲甲第三号証により認められる被告指摘の引用例の記載に照らせば、引用例においても苗室の大きさは、水稲苗の根が育成期間経過後根絡みにより苗室内の土壌材を固結して単体の形状となるように設計されているものと推認される。

そうであれば、相違点<2>として摘示された本願発明の小ポツトの容積と引用例の苗室の容積の間に格別の差異を認めることはできず、前掲甲第二号証によるも、本願発明が小ポツトの容積に関し従来のものと対比して格段の工夫をしているものということはできない。

原告は、本願発明による土付苗は前掲甲第四ないし第六号証及び引用例のものと異なりその容積も自ずから相違する旨主張するが、右主張を認めるに足りる証拠はない。

したがつて、取消事由(2)も理由がない。

四 取消事由(3)について

本願発明の育苗ポツトはその特許請求の範囲に記載されているように、主板の上面を開口しかつこの主板の下側に有底の小ポツトを多数一体成型で突設し、全体として一つの剛体として構成されており、前掲甲第二号証によれば、本願明細書の発明の詳細な説明の項には、その材質につき「全体として剛体をなす硬度で、反覆使用に耐え得るものであればよく、それには、プラスチツクのほかゴム質、耐腐、非溶解性等の耐久力をもたせた紙等の繊維質、金属などが考えられる。」と記載されていることが認められる(第六欄八行ないし一二行)。これに対し審決が全体として一つの剛体としたものの周知例として引用した成立に争いのない甲第八ないし第一〇号証に記載された育苗用ポツトはいずれも厚い主板を打抜いて多数のポツト室を形成した無底のものであつて、原告主張のように本願発明の有底の育苗用ポツトとはその構成を異にしている。

しかし、本願発明が育苗ポツトを全体的に一つの剛体としたことにより奏する効果としては、前掲甲第二号証の本願明細書中に「全体として一つの剛体であるので、取扱いが至便であるとともに、土納入作業もこれといつたテクニツクを全く要せずごく簡単である。」(第七欄一一行ないし一三行)、「全体として一つの剛体をなすので、灌水などの育苗管理に特別な注意を要することもない。」(同欄三六行ないし三七行)、「多数の小ポツトを形成した剛体をなす一体成型品であるので、育苗中において持ち運びする際にも、小ポツトが大きく変形してその中の土壌材の塊状が損われることがない。」(第八欄十七ないし十九行)と記載されているところであり、前掲甲第八ないし第一〇号証によれば、これらに記載された前記周知の育苗ポツトにおいても右同様の効果が奏せられることが認められる。そして、前記のように、主板の下側にその主板の上面に開口しかつ有底の小ポツトを多数突設してなる育苗ポツトが本出願前公知であることに鑑れば、本願発明のような育苗ポツトを全体的に一つの剛体として構成する相違点<4>は当業者が容易になし得る設計的事項であるということができる。

したがつて、取消事由(3)も理由がない。

五 よつて、原告の本訴請求を失当として棄却する。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

主板の下側に、その主板の上面に開口しかつ有底の小ポツトを、その容積を、そこに播種した所要数の種籾が一株の水稲苗として成長する間にその根の拡散伸長を半ば積極的に制限して、その根に、その小ポツト内の土壌材を固結して単体の塊状とするいわゆる根絡み根鉢現象を起生させることができる大きさとするとともに、その内面空間を底壁に向い先細状にして多数一体成型で突設し、全体的には一つは剛体としてなる播き水稲苗用育苗ポツト。

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